飛 浩隆 / ラギッド・ガール―廃園の天使II
2002年に発売された
グラン・ヴァカンス−廃園の天使Iから始まった廃園の天使三部作。
本作は4年経ってやっと発売された第二部である。
前作は仮想リゾート<数値海岸>内にある<夏の区界>を舞台にした長編で、舞台内の話は分かるのだが、何故<数値海岸>に<大途絶>が起こり、人間が訪れなくなって千年も経ったのか、など読んでいて疑問に思う部分は全く持って明らかにならない。
まるでぽっかりと中心部分に穴が開いたドーナツのようなそんな状態に読者は置かれる。
そんな状態で4年近く放っておかれた俺は、最初の一編"夏の硝視体"で懐かしさで少し切なくなってしまった。
だが、本作では<数値海岸>内の話ではなく、外部の人間達の話が大半を占めており、<数値海岸>誕生までの話"ラギッド・ガール"は震えた。
仮想現実やヴァーチャルリアリティなんてありふれており、MATRIXなのでお茶の間にも浸透した感があり、「今更何を…」と思ってしまうかも知れないが、俺はこの一編を読んだとき15年前に攻殻機動隊を初めて読んだときと同じくらい頭をガツンと殴られた様な状態になった。
本書を読んだ人には分かると思うが、著者がこの話の中で描き出す多重現実のおそろしいリアリティと登場人物達には心底震え上がった。
怖いというのではない、人間の想像力、いや自分の想像力を意図も容易く凌駕していった時に感じる震えである。
この一編だけでも¥1680円を払う価値が有ると断言できる。
他にもランゴーニ誕生の話や、なぜ大途絶が起きたのかなど、一気に畳みかけるようにすっぽりと抜けていた中心部分の情報が補完されていくのは読んでいて非常に面白い。
だが、これで思うのは第3部である<空の園丁(仮)>で本当に終るのだろうか?という事である。
まぁ4部でも5部でも続きが読めるならそれはそれで嬉しいから構わないんですが(笑)
ということで、廃園の天使Iを読んだ人は是非ともIIを読んで頂きたい。
まだ読んだこと無い御仁は、文庫になっている1巻から手を出すのをお勧めします。
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